サービス業(人材派遣業を例として)における倒産  事業再生の特徴

事業の特性

人材派遣業とは

 労働者派遣は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という)で、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる」ことを業として行うことと定められている(2条1項・3項)。労働者派遣法に基づいて、届出もしくは許可が必要な業界です。

  

    ア 派遣先の景気に影響されやすい 

 人材派遣会社は派遣先企業からの要請に応じて労働者の派遣を行うため、派遣先業界の業況・季節変動や派遣先企業の業績に自社の仕事量(業績)が左右されやすくなります。

   

    イ 派遣人材の質が差別化要因となる。

 質の高い人材をより多く確保することが最も重要となります。

 派遣先企業の要求水準に見合う人材を継続的に派遣するためには、質の高い派遣労働者をより多く安定的に確保する必要があります。派遣労働者の質の低下は派遣先企業からのクレームの原因となり、取引停止につながる主な要因となります。そのため採用段階での人材の見極めや、ビジネスマナー教育や専門的トレーニング等で、派遣労働者の質を維持することが重要となります。

   

     ウ 費用の大部分が人件費であるが、コスト削減は困難である。

 人材派遣業では売上原価の約80%を派遣労働者への労務費が占めるため、派遣労務費の削減が利益率の向上に直結します。しかし、派遣労務費を削減すると派遣労働者のモチベーションの低下や優秀な派遣労働者の他社への流出、ひいては派遣労働者の質の低下等を招く恐れがあるため、競合の水準を見極めた上で、慎重に検討する必要があります。

窮境の原因究明

(1)一般的傾向

 人材派遣業は資産および借入は少ない傾向にある業界のため、窮境に陥る要因は純粋な本業不振である場合が多いです。

(2)消費税の滞納

 人材派遣業は、売上は消費税込みで入金されますが、一方で支払の大半は人件費が占めています。そのため、受取消費税に対して支払消費税が少なくなり、納税額が大きくなる傾向にあります。業績不振企業は消費税の延滞が生じているケースが多いため、実態BSおよび清算BS作成の際は、簿外租税債務の存在に注意する必要があります。

倒産における特徴

(1)信用が基礎となる業界ゆえに企業イメージの低下が致命傷となる。

 人材派遣業は、派遣労働者が事業の要となります。人材派遣業の再生においては、信用不安による派遣労働者の離散を防止し、派遣先が欲するスキルを持つ労働者を確保することが必要不可欠となります。

 法的整理の場合、当該会社が経済的窮境にあることが世間に公表されてしまうため、信用不安や企業イメージの低下から、派遣労働者が当該派遣元事業主から離れ、また、質の高い派遣労働者を新たに確保することが困難となります。

(2)労働債権が対象債権の大部分を占め、取り扱いは一般破産債権とは異なる。

 派遣労働者の賃金は、清算BS作成の際には労働債権(優先債権)であることに留意が必要です。また、派遣労働者の社会保険料は租税公課に相当し、清算BS作成の際には労働債権よりも優先されることに留意する必要があります。

 また、労働債権が支払い困難な場合一定程度労働者健康安全機構による未払い賃金立替払い制度を活用して派遣労働者の賃金を保護することに留意が必要です。

 立替払の対象となる未払賃金は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している賃金及び退職手当となります。

事業再生における特徴

 人材派遣業は売上原価(派遣人件費)の削減が難しい場合が多いため、収益拡大のためには、売上拡大および本社経費等の固定費削減が最大のポイントとなります。売上は派遣単価×派遣人数に分解され、派遣人数=雇用・登録人数×稼働率に分解されます。

 中堅中小の人材派遣企業にとっては、まず、現在会社が事業を展開している地域ではどの業界で需要があるか、今後はどの業界で需要が見込まれるかを正しく推察し、マーケットのセグメンテーションをすること、派遣先企業の業績変動に対応できるように複数のセグメントを組み合わせることが、トップライン改善の第一歩となります。

 次に取り組むべきことは、人材の確保です。各セグメントにおいてマーケットが求めている人材の人物像を定義し、募集を行うことです。募集を成功させるためには、求める人物像に基づいて最適な求人媒体の選定、および、各求人媒体の費用対効果を測定して有効な求人媒体に資金を集中投下することがポイントとなります。また、登録・雇用後、ビジネスマナー教育や専門トレーニングを行うことで、派遣労働者の質を顧客が求めるレベルにまで高めることも必要となります。

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