事業承継と廃業の違いとは?メリット・デメリットや選択時の注意点
少子高齢化の日本において、多くの中小企業の経営者が「後継者不足」に悩んでいます。 株式会社東京商工リサーチによると、2025年の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は454件(前年比1.9%減)となっており、過去2番目の高水準です。
経営が苦しくなってきた、そろそろ引退を考えている、というような状況に経営者が直面した場合、「事業承継」と「廃業」のどちらかを選択する方法が考えられます。そこで、本記事では事業承継と廃業の違いや、選択時に知っておきたい法的な選択肢(破産・民事再生・特別清算・私的整理)についてわかりやすく解説します。
参考URL 株式会社東京商工サーチ 2025年「後継者難」倒産 過去2番目の454件 代表者の健康面が経営リスクに、破産が9割超える
Contents
なぜ日本の中小企業は事業承継や廃業に向かっているのか
日本企業の約99.7%(※)を占める中小企業は、今大きな岐路に立たされています。事業承継・廃業に向かっている背景には、複数の構造的な要因が重なっています。
経営者の高齢化は深刻な社会問題となっており、日本の中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しています。引退を検討する60代以降でも後継者が見つからず現役で経営者を続けている方が少なくありません。関連して、後継者不在の深刻化も大きな問題です。
少子高齢化によって後継ぎ不足は深刻であり、子どもがいても地方を離れるなどの理由によって事業を承継しないケースも少なくありません。実子以外の方へ事業承継を模索するケースもあります。また、少子化・人口減少は後継者不足だけではなく市場縮小にも影響しており、顧客・市場の先細りによって廃業に向かっています。
(※)参考URL 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 日本を支える中小企業
事業承継と廃業の違いとは
企業の今後を決める際の主な選択肢には「事業承継」と「廃業」の2つの選択肢が考えられます。そこで、本章ではこの2つの方法について違いを分かりやすく解説します。
事業承継とは
事業承継とは、経営者が保有する会社・事業を後継者に引き継ぐことです。実子や養子に引継ぐケースもありますが、少子高齢化を別の方法を利用する場合も少なくありません。
事業承継の方法は、主に3つに分けられます。
- 親族内承継:子や親族に経営権を譲渡する最も伝統的な方法
- 従業員承継:役員や従業員が会社を買い取る方法
- 第三者承継(M&A):社外の第三者に事業・株式を譲渡する方法
事業承継では、経営者が築いてきたブランドやノウハウ・顧客関係・雇用などを経営者が亡くなる前に円滑に引継ぎすることで、次に紹介する廃業よりも従業員・取引先への影響を小さく留めることが可能です。
廃業とは?
廃業とは、企業の事業活動を停止し、会社・事業を終えることです。法人の場合は株主総会での解散決議などを経て法人登記の抹消という流れをたどります。個人事業主であれば廃業届を提出することで事業を終了します。
廃業は後継者を探す必要がないため、自分のタイミングで事業を終えられます。ただし、従業員の退職や解雇や取引先との契約終了、資産の処分など、対応すべき手続きが多いため注意が必要です。
事業承継と廃業の違い
事業承継と廃業の主な違いは以下です。
| 事業承継 | 廃業 | |
| 企業の存続 | 企業の経営権や資産を
後継者に引き継ぐ |
企業を畳み、法人格を消滅させる |
| 従業員の雇用 | 原則として維持・継続される | 全員失業する |
| 取引先の影響 | 契約が継続され
混乱を最小限に抑える |
仕入先や顧客との取引は終える |
| 負債 | 負債は引き継がれる | 資産で負債を清算
不足分は経営者側が負担 |
事業承継は会社の経営権・資産だけではなく負債も引き継ぎます。そのため、高額の負債がある場合は事業承継を慎重に検討する必要があります。事業用資産を売却する方法も検討できますが、収益性が低下して悪循環に陥るリスクもあるため注意が必要です。
知っておきたい事業承継と廃業のメリット・デメリット
これから起業のかじ取りを決めるにあたっては、事業承継と廃業について、自社の現在の特徴に合わせて冷静に判断する必要があります。そこで、本章では2つの選択肢についてメリット・デメリットのいずれの視点からもわかりやすく解説します。
事業承継のメリット・デメリット
①メリット
事業承継の最大のメリットは、従業員の雇用を守れることです。廃業であれば全員が職を失いますが、承継なら雇用関係を引き継ぐことができます。
経営者自身にとっても、M&Aによる売却の場合は廃業より多くの資金を得られることが多く、引退後の生活設計がしやすくなります。さらに、国の事業承継・引継ぎ補助金や事業承継税制の特例措置など、充実した支援策を活用できる点も大きなメリットです。経営者保証ガイドラインを活用することで、個人保証を解除できるケースもあります。
②デメリット
後継者探しに時間がかかるケースは少なくありません。親族や従業員への承継であれば意思疎通がしやすい反面、相続や資金調達の問題も生じやすく、トラブルが起きることがあります。
また、M&Aによる第三者承継では希望の条件で売却できないリスクもあります。仲介手数料など一定のコストも発生するため、費用対効果も専門家に相談しながら分析する必要があるでしょう。また、現在抱えている企業の問題を丁寧に引継ぎしなければ承継後も残ってしまいます。ワンマン経営だった企業の場合、後継者への引継ぎが難航することも多いため、スケジュールを決めて進める必要があるでしょう。
廃業のメリット・デメリット
①メリット
廃業の最大のメリットは、廃業したいタイミングで事業を終えられることです。経営責任から解放されることで老後の生活設計も立てやすくなります。残余財産を清算して個人資産として受け取れる点も、財務状況によってはメリットになります。
また、事業規模が小さくM&Aのコストが合わない場合や、健康上の理由で早期に事業を終了させたい場合など、廃業が経営者にとって合理的な選択肢となるケースも少なくありません。
②デメリット
廃業のデメリットは従業員が職を失い、取引先・顧客との関係もすべて終了する点です。
また、M&Aで売却できた場合と比べて経営者が得られる資金は少なくなる傾向があり、廃業手続き(解散登記・清算・従業員への退職金など)にも相応のコストと時間がかかります。
黒字であり、事業承継なら経営者にも従業員にも有利だったのにかかわらず、自社の価値がわからずに黒字廃業に至るケースもあります。
なるべく早い段階から事業承継と廃業のどちらにするべきか専門家のアドバイスを受けることが望ましいでしょう。さらに、債務超過や資金繰りが深刻な場合は任意廃業では対応できず、破産や民事再生といった法的手続きが必要になるケースもあります。
実際に事業承継や廃業をする際の流れ
実際に企業の事業承継や廃業は、どのようにすすむのでしょうか。本章では2つの選択肢について、流れをご説明します。
事業承継の一般的な流れ
① 専門家・仲介会社への相談・ヒアリング
まずは、M&A仲介会社、銀行、弁護士や税理士などの専門家に相談することから始まります。自社の現状(財務状況、強み、課題)を洗い出し、「なぜ承継するのか」「いつまでに、どのような相手に譲りたいか」といった経営者の意向を整理します。
② 企業価値の評価を行う
企業の決算書や事業計画書を基に、会社が客観的にいくらの価値があるのかを算出します。
③ 候補者の選定・マッチング
親族への継承や、第三者への事業承継など、候補者の選定とマッチングを行います。親族内で候補者が決まっている場合は、早期に育成を開始します。従業員の場合は後継者の周知、M&Aの場合は仲介会社への相談遭を行い、マッチングを行います。
④条件交渉
M&Aの場合、経営者同士で経営理念や社風、従業員の雇用などを確認し合います。数字だけでは見えない「相性」を確かめることも重要です。その後、価格や従業員の雇用維持といった具体的な条件交渉に入ります。
⑤ 基本合意書の締結
譲渡価格、スキーム(株式譲渡や事業譲渡など)、今後のスケジュールなど、現時点での合意事項を「基本合意書」としてまとめます。ここには通常、一定期間の「独占交渉権」が付与されます。デューデリジェンス(買い手による精査)を行い、買い手側がリスクの有無を確認します。
⑦ 最終契約や株式譲渡
M&Aの場合はデューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な条件を確定し、譲渡契約を締結します。株式の移転や代金の決済(クロージング)が行われ、法的に経営権が移動します。親族や従業員承継の場合は株式の譲渡を行います。新しいオーナーのもとで組織を統合し、シナジーを発揮させるための実務作業(PMI:Post Merger Integration)が始まります。前経営者は一定期間、顧問や会長として残り、スムーズな引き継ぎをサポートするケースもあります。
廃業の一般的な流れ
① 関係者への通知
経営者が廃業を決断したら、まずは影響の大きい関係者(従業員・取引先・金融機関)へ通知を行います。突然の廃業はパニックを招きやすいため、取引先への支払いや借入金の返済計画を事前にシミュレーションし、混乱を最小限に抑えるタイミングで公表することが重要です。
② 従業員への解雇手続き・退職金の支払い
従業員の解雇を行う場合、労働基準法に基づき原則として解雇の30日前までに予告を行う必要があります。誠実な説明を行い、未払給与や退職金の支払い、再就職の支援などを丁寧に進めることで、労働トラブルのリスクを回避します。
③固定資産などの処分・売却
会社が保有する固定資産などを売却して現金化や廃棄処分を進めます。売却益が出る場合は税金が発生し、廃棄費用が予想以上にかかることもあるため、早期にすすめることがおすすめです。
④ 会社の解散決議(株主総会)・解散登記
株主総会を開き、解散の「特別決議」を行います。決議後、2週間以内に法務局へ解散登記と、清算実務を行う「清算人」の選任登記を申請します。
⑤ 清算手続き
売掛金の回収を行い、買掛金や借入金をすべて返済します。また、官報に「解散公告」を掲載し、債権者に申し出るよう促します。
⑥ 清算確定申告・税務申告
解散時点での「解散確定申告」と、残余財産が確定した際の「清算結了確定申告」の2回、税務申告を行います。税理士と連携し、資産売却に伴う法人税や、株主への配当に関する課税関係を正しく処理します。
⑦ 清算結了登記・廃業届の提出
すべての債務を払い終え、残った財産を株主に分配した後、株主総会で決算報告の承認を受けます。最後に法務局で清算結了登記を行い、税務署等へ廃業届を提出すれば、手続きは完了です。
事業承継や廃業前に知っておくべき「法的選択肢」とは
企業の事業承継や廃業を検討している場合でも、実は状況に応じてさまざまな法的手続きを選択できます。2つの選択肢だけが出口ではありません。特に債務超過や資金繰り悪化が深刻な場合は、弁護士に相談した上で経営のゆくえを決めることが大切です。そこで、本章では事業承継や廃業を選択する前に知っておきたい「法的選択肢」をご紹介します。
1. 破産(自己破産・法人破産)
破産とは、財産を換価して債権者へ平等に分配し、残債務を免除してもらう手続きです。法人が破産した場合は会社が消滅します。法人破産において経営者個人も連帯保証をしている場合は、個人破産も同時に検討する必要があります。
破産手続は裁判所が関与する法的手続きであり、弁護士へ依頼して進めることが一般的です。
2.民事再生
民事再生とは、事業を継続しながら債務を圧縮・分割払いする形で再建を目指す手続きです。廃業せずに事業を存続させたい場合に有効です。スポンサーを探すことで事業承継との組み合わせも可能なケースもあります。
民事再生も裁判所で進める手続きです。再生計画を策定後、債権者の多数決で可決が必要となります。
3.特別清算(株式会社のみ)
特別清算とは、解散した株式会社が通常の清算では完了が困難な場合に、裁判所の監督のもとで清算を進める手続きです。通常清算より債権者との交渉が円滑に進みやすい特徴があります。破産より簡易・迅速に進められることが多いですが個人事業主は対象外です。
4.私的整理(任意整理・事業再生ADR)
私的整理とは、裁判所を通さずに債権者と直接交渉して債務の減免・返済猶予を求める手続きです。情報が外部に漏れにくく、事業への影響を最小限に抑えられます。金融機関が主な対象となることが多く、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」に基づく手続きも活用可能です。ただし、:全債権者の同意が必要となるため交渉が決裂し、別の方法へと切り替える場合もあります。
法的選択肢は誰に相談できる?
経営のゆくえを決めるにあたっては、破産・民事再生・特別清算・私的整理などさまざまな選択肢があります。しかし、どの手続きが自社の状況に適しているかは、専門的な判断が必要です。ここでは、法的選択肢における相談先の種類と、それぞれが対応できる範囲を整理します。
商工会・商工会議所などで無料相談できるケース
商工会・商工会議所や、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターでは、経営・事業承継に関する無料相談を実施しています。費用をかけずに相談できる点が大きなメリットです。
ただし、これらの機関が対応できるのは主に「事業承継の検討段階」や「廃業の方向性の整理」であり、法的な手続き(破産・再生申立て、弁護士費用の見積もり、債権者交渉など)は対応範囲外です。
税理士
税理士は、廃業・事業承継に伴う税務処理の専門家です。日頃から自社の財務状況を把握している顧問税理士であれば、最初の相談相手として非常に頼りになります。税理士が対応できる主な範囲は以下のとおりです。
- 廃業時の清算確定申告・税務申告の作成
- 事業承継に伴う株式譲渡・贈与に関する税務(事業承継税制の適用含む)
- M&Aにおける売却対価の税務上の取り扱い
- 役員退職金の設計・損金算入の検討
- 廃業・承継の方向性についての財務的なアドバイス
一方、税理士は法的手続き(破産申立て・再生計画の策定・債権者交渉など)については対応範囲外です。財務・税務の整理は税理士、法的手続きは弁護士、という役割分担を理解しておきましょう。債務超過が疑われる場合や、金融機関との交渉が必要な場合は、税理士から弁護士を紹介してもらうことも一般的です。
弁護士
法的手続きを選択する場合、弁護士への相談は不可欠です。弁護士は具体的に以下のご相談に対応可能です。
- 破産申立て(法人破産・個人破産)の準備・申立て・裁判所対応
- 民事再生申立て・再生計画の策定など
- 特別清算の申立て・債権者との協定交渉
- 私的整理における金融機関との債務整理交渉
- 経営者の個人保証(連帯保証)の処理・経営者保証ガイドラインの活用
- M&Aにおける最終契約書のリーガルチェック・表明保証の検討
- 従業員解雇に伴う労働紛争・未払い賃金問題への対応
経営状況が悪化している場合、相談が遅れるほど選択できる手続きの幅が狭まります。「まだ大丈夫」と先送りにせず、早期に弁護士へ相談することがおすすめです。
まとめ
事業承継や廃業など、経営のゆくえを決めるためには単なる経営判断を超え、法律・税務の両面から高度な分析を要する重大な課題です。特に会社の財政状況次第では、希望する手続きが選択できないリスクもあるため、早期の法律相談が重要です。まずは専門的な知見を持つ弁護士へお気軽にご相談ください。
この記事の監修者

弁護士法人i 代表弁護士
黒田 充宏
法人破産は自己破産と違い、従業員対応や債権者などへの交渉、説得が必要となってきますので、経験豊富な事務所に依頼されることをお勧めします。破産をお考えの方の中には、破産費用が払えないから相談に行くのをためらわれている方もいらっしゃると思いますが、当事務所はこれまでに850件以上もの借金に関するトラブルの事件処理を担当し、会社の倒産・再生の相談や事件処理も100社以上担当してきた経験から、手元に現金がなくても、住宅や車を売却することによって、破産費用を充足した例がたくさんあります。
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